10年越しの恋
さやが案内してくれたお店はスペインのバール料理、小皿で少しずつサーブされるピンチョスがメインのレストランだった。

簡単に言えばイタリアンで出される前菜が大皿で出てくるのではなく1品ずつ出てくる感じ。

私たちは生ハム、オリーブ、海老のガーリック炒めなど何品かと生ビールをオーダーした。

金曜日で賑わう店内の喧騒とBGMに負けないぐらいに大きな声でジョッキを合わせた。


「もう東京に行って1年だけど仕事はどう?」


「仕事自体は全然やりたいこと出来なくて最悪だけどこっちとは出会う人のレベルが違って楽しい」


未だにバイト扱いのままでも、雑誌の編集部という仕事柄有名モデルや芸能人との接点も多くありえない人間関係の広がりがあるらしかった。


「だってさやなんかすっごい垢抜けたもんね」


咲が言った通りさやはとても洗練されて輝きを増していた。


「瀬名はどうよ?」


何気ない問いにも答えに窮してしまう。

聞いた後しまったという表情を見せたさやに気を使わせないように。


「私は適当に社会人してるよ」


出来るだけ自然に聞こえるようにそう言った。


「そうじゃなくて雅紀くんとはどうなのよ」


場の空気を壊さないようにさやも言葉を繋いでくれる。


「あぁ、そっちね。仲良くやってるよ」


「雅紀君ってあの大学時代の彼?」


「そう、瀬名はずっとあのまま付き合ってるんだよ」


驚く咲にさやが掻い摘んで説明をしてくれた。


「さやはあの彼と上手くいってるの?」


「そんなのとっくに別れたよ」


東京に行ってから半年ほどで遠恋に我慢できなくなって今は20も年上のオヤジ佐々木さんと付き合っていると話してくれた。

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