10年越しの恋
「急に静かになったな」

二人が乗っていた時には全く聞こえなかった音楽が今度は逆に静寂を和らげるように響く。

雅紀と二人っきりになったとたんに口数が少なくなってしまった。

”変わったね” ”瀬名は笑わなくなった”

以前の私を知る人たちが声を揃えていう感想を今日は聞きたくなくて精一杯はしゃいだ。

思うような仕事が出来なくても自分なりに頑張るさや、1流企業で働く咲と情けない自分を比べてしまう。

どうして自分だけ、そんな気持ちをごまかす為もうなんでもない風を装った。

なのに気が緩んだ瞬間我慢していた感情が倍になって襲ってくる。

泣いてはいけない、泣かないつもりだったのにいつの間にか溢れる涙は止まらなかった。

雅紀に気づかれないように外の景色に目を向ける。

山を抜けるバイパス道路の下には整然と並ぶたくさんの家の明かりがクリスマスイルミネーションのようなきらめきを放っていた。

あえて何も言わずにスヌーピーのカバーをかけたティッシュBOXを膝に乗せてくれる雅紀の気持ちがもっと胸を痛くさせる。

私がこうして泣くことでまた雅紀を責めることになるのに。



雅紀の優しさに甘えっ放しだった。

こうして少しづつ雅紀を傷つけ、追いつめていることにも鈍感なまま…。

わがままばかりでごめんね。

あなたの気持ちに全く気付かなくてごめん。


そうしてまた短い夏が過ぎて行く。


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