10年越しの恋
鯛を中心にあさり、ハマグリ、少し奮発して小さなアワビを入れたアクアパッツアをメインにした夕食は食べ切れないかと思うぐらいのボリュームがあった。

冷たすぎるほどに冷やした白ワインを飲みながら食べ進める。


「もう5年だよ! あっという間だったね」


「早くこうして二人で暮らせるようにがんばるから」


わざとクーラーを入れないで浜から吹きよせる風だけで過ごす部屋に漂う残暑の暑さとワインを飲んだ火照りで顔を赤くして話した。


「今日スーパーですれ違った若い夫婦覚えてる?」


「ああ、あのおちびちゃんが手を振ってくれた?」


「そう、1日も早くあんな風になりたいって。最低限生活出来るだけの金があれば瀬名とは笑って暮らせるんじゃないかって思った」


「ありがとう。そうだよね、こうして二人でいられるだけで私は幸せだよ」


今日は恥ずかしくならずに雅紀の方を見ながら正直な気持ちを伝えることが出来た。

夕食後ベランダで涼んでいた雅紀が歓声を上げる。


「こっち来てみ! 綺麗だよ」


開いたサッシから顔を出すと海岸で少し季節はずれの花火が派手な音をたてていた。


街灯や町のネオンに邪魔されることのない海辺では一瞬で消える花弁が信じられないほど輝いている。

そんな光を背景に改めて乾杯した。


「来年も再来年もこうして永遠に二人で」


この夜、あの日以来初めて雅紀と一つになった。

震える体を優しく包んでくれる暖かい手に委ねることが出来た。

二人の肌を隔てるものが何もない状態で互いの温もりを感じる。

久しぶりに雅紀の胸に顔を埋めると大好きな匂いがした。

ここだけが自分の居場所なんだと……。


強く握りしめられた手を離したくないと思った。
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