10年越しの恋
「なんだよ! まだ理屈捏ねんのか」


電話の向こうで苛立ち煙草を吹かす姿が目に浮かぶ。


「まず請求書がないので金額が分かりません」


「3000万だって言ってんだろう!」


「そんな口頭情報で伝票を作成することはできません。第2に私は経理ではないので今日中に支払可能かどうかのお話もできません」


「ほんとイライラするよ! 経理はお前と話をしろって電話を回したんだ」


「失礼ですが以前にも申し上げましたが私は営業の人間でもありませんし、ましてやお前という名前でもありません」


こんなやりとりの間にお昼休みを告げるチャイムが鳴ると営業事務の中島さんは何事もなかったように自分の席を立った。

ありえないよ! 私の中の怒りが倍増する。


「こんな緊急事態に何抜かしてんの?」


「自分のミスをカバーしてほしいのならまずはごめんなさいの一言が必要なんじゃないですか?」

もう10分以上続く問答にも誰一人助けに来てくれないことにたまらない気持ちになった。


「お前誰に口聞いてると思ってんの」


この一言に切れてしまった。


「偉そうに物を言うことしか知らない金田とかいうおっさんと話してます。まあ人を威嚇することでしか動かせないウジ虫みたいな男なんですけどね」


怒りで肩を震わせていると後ろから手が伸びてきて保留ボタンが押される。

振り向くと江崎くんと大野君がいた。


「一旦このまま電話切った方がいい」


そう言ってもう1度ボタンを押し電話が切られた。


「下で一服しようぜ」


突然のことに感情が収まらないまま二人の後をついて階段を下りた。
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