10年越しの恋
いつの間にか店内は私達だけだった。


「もう2時だ! 時間大丈夫?」


改めて時計を確認した。


「今更だよ。どうせ終電もないしタクシーで帰るから同じだって」


「じゃあこれ飲み終わったら帰るか」


ほろ酔いを通り越してまたも酔っぱらいになってしまった私はケンとマスターに今日の金田退治を面白おかしく話した。


「ごちそうさまでした」


ご機嫌なまま背の高いスツールから飛び降りて店の外に出るとすっかり秋めいた風が気持ちいい。

勝手にふらふらと歩き始めるとお会計を済ませたケンが慌てて追いかけてくる。


「ちょっと待って、危ないから」


何気なく握られた手は分厚くて大きくって暖かい。

何故か酔うと腕を組んだり、手をつないで歩いたさやを思い出して楽しくなった。

繋いだ手を離さずにぶんぶん振りまわして歩くと本当にタイムスリップしたみたい。


「今日も一緒に帰ろうね」


そう言うと急に手を離してすぐ傍に停まっているタクシーに手を挙げて乗る意思を伝える。

ドアが開くと私を先に乗り込ませた。


「ケンは乗らないの?」


「これ以上一緒にいたら友達じゃいられなくなる」


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