10年越しの恋
そう言ってドアを閉め窓越しに手を振るケンは今までに見たことがないぐらい切ない顔をしていた。


「もう行ってもいいですか?」


女性運転手が声を掛ける。


「はい… T町までお願いします」


窓を開けて何かを伝えたい気がしたけど言葉に出来る気がしなくてそのまま窓越しに手を振った。

遠ざかって行く姿に「ごめんなさい」そうつぶやくしか出来なかった。

ケンの気持ちを知りながらあくまで私は友達のままであり続けたいと願い、その気持ちがどれだけ相手に我慢を強いているのか。

「友達でいられなくなる」そんな切ない言葉を言わせてしまった自分が情けない。

色んな気持ちが急に津波みたいに押し寄せてきて溢れた感情が涙になって溢れだす。


「よかったら思いっきり泣いてくださいね。なんだかお客さん思いつめてる気がする。検討外れだったらごめんなさいね」


私の様子をずっと見ていただろうドライバーさんの言葉に涙腺が弱りきってしまった。


「ありがとございます」


「生きてるといろいろありますよね」


「そうですね……」


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