10年越しの恋
雅紀は何も答えなかった。

でも電話の向こうでどんな顔をしているのか、どれだけ傷ついているのかが伝わってくる気がした。

謝らなきゃ…。頭では分かっているのに言葉に出来ない。

私はベットに座り、ただ電話の向こうの雅紀に神経を集中させる。

長い沈黙の後大きく息を吐き出す音が聞こえてきた。


「瀬名、明日会おう。今日の仕切り直ししよう」


「えっ?」


「俺が悪かった…。ごめんな。今日こんな時間だから明日夕方ぐらいに迎えに行く」


雅紀はいつもこうして自分が大人になってくれた。

本当なら私の役目なのに素直じゃない私を素直にしてくれる。


「私もごめんなさい」


こうしてわだかまりを次の日に持ち越さないようにごめんなさいを魔法の言葉にしてくれた。


「早くお風呂入ってゆっくり寝て。愛してるよ」


「ありがとう。おやすみなさい」


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