10年越しの恋
なんとなく先に電話を切る気になれなくてそのまま耳に当てていると同じように携帯を持ってベットに横になっている雅紀の姿が浮かんだ。

しばらくそのままでいたかった。

付き合い始めた頃もっともっと雅紀の事が知りたくて、声を聞いていたくてこうして毎日夜中まで電話をした。

5年が経った今では夜の電話が習慣になって、雅紀が自分の隣にいることが当たり前のように思っていた。

こうして雅紀の気配に耳を澄ませるのは久しぶりのような気がする。

ふと出会った頃の甘い記憶が胸を締め付けた。


「先に切ってよ」


たまらず声を掛ける。


「瀬名から切って」


とても懐かしい響きに思わず頬が緩んだ。


「なんかこういうの懐かしいね。昔よくこうして電話切ることが出来ずに朝になったよね」


「ほんとだね。でも明日デートするんだからもう寝るぞ」


「じゃあ久しぶりにせーので切る?」


「OK 今度こそお休み。せーの」


OFFボタンを押した。

後に知ったことだけど…。

こう言いながらも私が電話を切ったのを確認してから雅紀は電話を切っていたと。


私の方が年上だからと友達の前ではお姉さん風に振舞ってたけど……。

本当はいつも雅紀が色んな事を我慢してくれてたんだよね。

悲しみを心に隠したまま守ってくれてたのに、その優しさに気づくことが出来なかった。

私は自分の気持ちしか見えてなかったんだ。

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