10年越しの恋
今年も快晴で夏の強い日差しが照りつけている。

赤いリボンを掛けた真っ白な箱とひまわりの花束を手に階段を登っているとあの夏の出来事がまるで昨日のことのように思い出されて少し苦しくなった。

気持ちはまだあの日に留まったままなのに、勝手に時間だけが過ぎているみたい。

今日雅紀と待ち合わせをした公園には同じように青々とした桜の葉が茂っていたし蝉も鳴いていた。

何気なくお腹に手を当ててみてもそこには少しだけ増えた脂肪を感じるだけで誰もいない。

先を進む雅紀はどんな風に感じているんだろう?

見慣れた背中を見つめていると悲しくなる。

自分だけがあの日のあの場所から全く前に進めていないような気がした。

少し遅れてお堂に入ると雅紀がお線香とろうそくを手に待ってくれていた。


「今年は何持ってきたの?」


そんな雅紀の無邪気な問いかけに箱を開いてみせる。

今年はプラスチックで出来たスヌーピー柄の食器セットと水着を持って来ていた。


「ご飯食べる練習と私達が大好きな海デビュー出来るようにってね」


「俺もスプーンとフォークセット。同じスヌーピーだよ」


柄の部分が顔になっている小さな可愛い銀色の物だった。


「うん……」


いつの間にか流れ始めた涙を止めることが出来なくて、泣き笑いみたいなおかしな表情にだったと思う。


涙顔のまま靴を脱いで畳に正座した。

周りは森で本堂から離れた所にあるこの場所は静寂に包まれていて、目を閉じると華ちゃんに会えるような気がする。

『もう2年です。寂しい思いはしていませんか? 後少し待ってもう一度私達の間に帰って来てね』

そう話しかけた。もちろん答えは帰って来ないけれど。


目を開くと雅紀はじっと菩薩様を見つめている。

その横顔は今年も父親だった。


神様、どうして私たちに子供を授けたのですか?

今年も同じように問いかけずにはいられなかった。

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