10年越しの恋
お参りの後夕食を食べるようと山を下った所にあるファミレスに入った。

今日ばかりはどう頑張ったってしんみりしてしまう。

無意識の内に2年前の思い出話になるし、華ちゃんがいたらそんな会話ばかりだった。

ベビーカーを押しながら買い物をする姿、週末には海で遊んだり3人で川の字でお昼寝。

空想が頭の中に広がった。

でも雅紀の一言で現実に引き戻されることになった。

食後のお茶を飲んでいる時だった。


「俺やっぱり卒業後すぐに家継ぐことになるかも」


「他で就職しないってこと?」


卒業後は実家以外の会社に就職して働いてお金を貯めて、それで誰にも口出しさせないで結婚しようって決めていた。

「親父ももう年だから不安みたいでさ。現役の間に仕事を完全に引き継いで欲しいって」


私の中の理性的な部分では雅紀のお父さんが既に60歳を越えていて不安な気持ちを抱えていることぐらい簡単に理解できた。

でもどうしても約束を守ってほしい気持ちを我慢することができない。

何もこんな日に言わなくたっていいじゃない。そんな風にも思った。


「また雅紀の家の為に私が我慢するの?」


「別に俺が家で働いたって他の会社で働いたって変わんないだろ?」


家の会社では結局のところ給料の出所は親な訳で、そんなお金を貯めたところでまた口出しされるのは目に見えている、でも雅紀にとっては同じことらしい。


「もういい。まあちゃんがそのつもりなら別れる」


怒りとも悲しみともつかない気持ちが頭の中でぐるぐる回って胃がきゅっと握りつぶされるみたいに締め付けられて、うまく息が出来なくなって……。

目の前の苦しさから逃げ出したくなって店を飛び出した。

国道沿いを涙を流しながら息も絶え絶えに歩く私は不審者以外の何物でもなかっただろう。

駅の方向も分からずただ車の流れに沿って肩を怒らせながら早足で歩いた。

何が悲しくて何が悔しいのかなんて全く分からなかった。

ただただ虚しかった。

スレ違う人の目も行き交う車からの視線もどうでもいいぐらいに空虚な気持ちでいっぱいだった。

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