10年越しの恋
「東京はどう?」


最初に感じたぎこちなさもアルコールが入るといつの間にか以前の二人に戻って行く気がする。


「きっと楽しいんだろうな。ケンは優しいしかっこよくなったからきっと彼女とか出来て幸せな生活してるんでしょ!」


「彼女は出来てないな…。それに知り合いが少ないからやっぱり寂しいよ」


言葉少な中にケンの毎日を見てとれた。


「瀬名ちゃん、もう瀬名でいいか! そっちはどうなの?」


「やっと瀬名って呼んでくれた!!」


ケンがやっと呼び捨てで呼んでくれたことに妙な安心感を覚える。


「瀬名だって!! なんかいいね」


「瀬名、近況は?」


呼び捨てにするたびに少し照れくさそうなケンが面白い。


「何も変わらないよ。雅紀がいて瀬名がいる!!」


「結婚は? もう長いしお前もいい歳だろ」


「いい歳ってひどい!!! まだ26だよ」


「もう26だろ」


「ひどい! まだ26だよ」


「そっか。まだ26歳、若い若い」


「若いって思ってないでしょ…。どうせもうおばちゃんだよ…」


手元にあったおしぼりを投げつけると顔の前で上手に受け止めて笑った。


「素直じゃない瀬名。なんか溜まってるんでしょ。ほら飲んで飲んで」


不思議な事に雅紀と二人でいる時に感じる後ろめたさや心のどこかに隠し持った悲しみを感じないで笑うことが出来たんだ。

ビールに飽きてワインを飲み始めた頃に合宿先の雅紀から電話があった。


「ごめんね。俺だけ遊んじゃって」


会社からまっすぐ家に帰っていたら11時を過ぎてからの電話にまた怒っていたかもしれない。


「いいよ。私も咲と飲んでるから」


ケンの目の前で雅紀に嘘をついた。


「そっか! じゃあ楽しんでね」


何の疑いもなく電話を切った雅紀に後ろめたさはなかった。

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