10年越しの恋
「なあ瀬名、一緒に居たいってことはいいってことなの?」


「いいよ。ケンが行きたい所ならどこでもいい」


「お前ホントに分かって話してる?」


「なにが? ケンくんとお泊りいいよ」


「これっていわゆる生殺しだよな」


隣で溜息混じりにぼやくケンにお構いなしに私はただ酔っ払って滲んで見える景色や理性から解き放たれた会話を楽しんでいた。


「ケンくん! お家はどこですか?」


「俺は今東京が家だからホテルに泊ってるの」


「えー ホテル?? なんかエッチな響きだね」


「もういいから黙ってついてきて」


「ついていったら襲うんでしょ!」


「そんなこと言うならタクシーで送ってもいいけど」


「やだ…。一人は嫌なの」


「だったら黙ってついてくる」


部屋は思ったよりも広くってビジネスホテルって言うよりウィークリーマンションみたいだった。


履いていたミュールを脱ぎ棄ててベットにダイブすると本当に酔っている自分を実感した。


「ケン… 私酔っぱらいだ。お水飲みたい」


「今頃気づいたの? 今までで一番酔ってるよ」


「嫌いになった? やっぱりダメなんだ…」


「こんなことぐらいじゃ嫌いにならないよ」


「こんな瀬名の姿怖くてまあちゃんには見せられないの。嫌われたらもう人生終わっちゃうから」


「こんなことで人生終わんないだろ」


「終わっちゃうんだよ。雅紀と結婚しないと人生終わっちゃうの」


持って来てくれた小さなエビアンのボトルを一気に喉に流し込むと霞んでいた思考が少しだけ現実に戻ってくる。


「ケンと付き合ってたらこんなに悲しい思いしなくて済んだかな?」


「何言ってんだよ」


「馬鹿みたい? でもそう思ったの」


ベットの上で小さく丸くなると端に座ったケンが髪を撫でてくれる。


「シャツしわになるから俺のでよかったら着替えた方がいいよ」


小さく頷くとクローゼットから黒いTシャツを持ってきてくれた。

その場でシャツを脱いで着替えようとボタンを外し始めると俺も着替えてくる、そう言ってバスルームへと早足で向かって行った。

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