10年越しの恋
「誰かを好きになってずっと一緒にいるのって大変なことなんだね」


「そりゃそうだろ。他人同士なんだから」


薄闇に人影が動くのを感じるとケンがベットの真下にいた。

不意に手を握りしめられる。


「少しはドキドキした?」


「当り前でしょ! 心臓止まるかと思った」


「瀬名と雅紀君にもこんな夜があったわけじゃん? その時に感じた好きって気持ちをどこまで保っていられるかなんじゃないの?」


「ねえケン、寝るまで手繋いでいてくれる?」


「しゃあねーな。その代り俺のことも癒してくれよ」


いいよって返事をする間もなくおでこに柔らかい唇が触れる。

反射的に閉じた目を開くと初めて至近距離で見る顔があった。

何の不快感もなくそこにケンがいて、ともするとそのまま自分から抱きしめてしまいそうなそんな気持ちになった。


国道を走り抜ける大型車の振動に目を覚ました。

「結婚無くなったら人生終わりだなって悲しいこと言わずに限界まで頑張れよ。一人になんてならない。守ってやるからさ」

そう言っていつの間にか眠り、律儀に握ったままの手をそっと離した。

朝、酔いが醒めた状態で向い合うと少し照れくさかったけれど、素直にありがとうと伝えた。

東京に向かう新幹線のホームでケンを見送り、もう一度日常と向かい合うことを決めた。
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