10年越しの恋

愛するからこそ

「ブーケ瀬名が取ったの?」


重い紙袋の上につぶれないように乗せておいた真っ白な花束。


「次は私だってまさよが…。 結婚出来るかもわかんないのにね」


素直になれず意地悪な言葉が口をついて出る。こう言った瞬間に雅紀が困った顔をするのを分かっていながら我慢できない。


「どうしてそんな風に言うの?」


雅紀から帰ってくる答えは予想通りだった。


「私たちに未来はあるのかな?」


「……」


またいつもと同じ先の見えない迷路に迷い込む。
この先を明言してくれない雅紀の態度に不安を感じるから避けてきた話だった。


「いいよ。気にしないで、幸せに少しやられただけ」


無理やり作った笑顔で振りむく。そんなことの繰り返しだった。


少しして会場から出てきた二人を乗せて車は走り始めた。


「瀬名のスピーチは感動だったよね」


「ゆうがステーキ頬張りながら泣いてたの見えたよ」


「泣いてる瀬名を見たらたまんなかったんだもん。次は私達があれよりももっと泣けるスピーチするからね」


運転席の後ろに座ったゆうが雅紀に当たり前のように言った。


「次は瀬名の番だからね」って。


いつの頃か、まだ出会って間もない日に買ってもらったぬいぐるみ。

助手席で腕に抱いたスヌーピーだけが私の涙を受け止めてくれている。

嬉しそうな二人に「よろしくね」と返すしかなかった。



どこかで自分に今日のような日が来ないことを感じながら。
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