10年越しの恋
毎日よほど忙しくないとき以外は18時には帰宅して家から1分の距離にある銭湯へ向かう父。

それほど広くはないが狭くもないのに家のお風呂を嫌がった。

入浴時間は40分程と決まっていたので19時を目標に毎日夕飯が準備される。

今日はよせ鍋とれんこんのはさみ揚げ、たこの酢の物だったので18時には食卓に食器を並べ始め、その後揚げ物の準備に入る。

規則正しく繰り返されるこの風景を見ていつも母親を尊敬していた。

食卓には必ず3品以上の料理が用意され、時間も正確だったから。

私の中にはいつも相反する気持ちがあったんだ。親を尊敬する気持ちと卑下する思い。

火に掛けられた土鍋からは湯気が立ち上り出汁のいい香りが部屋に充満し始めた。するとタイミングよく玄関を開く音が聞こえる。

階段を登って来た父親の顔を見てから、冷凍庫で冷やしたグラスとビールを差し出して食事が始まった。


蓋を開けた鍋の中に見えるさまざまな食材の中から各自好きなものを取って食べる。

昔から変わらないのはそこにある海老には誰も手をつけずに私の為に取りだして冷ましておいてくれること。


「熱くて殻むけないだろ?」


今日も同じようにしてくれる。

きっと私はとてつもなく甘やかされているのだと思う。

無理を言って中学から私学に通い、高校で2年間留学させてもらい大学も私学、おまけにホームスティにまで行かせてもらった。

そして今日これからまた自分のわがままを言おうとしている。

どれだけ自分勝手なんだろうって思いながら食卓を囲む父と母を見た。

するとモモが自分のご飯を食べ終わったのにもかかわらずまだお鍋に入ったお肉を父親の膝に上ってねだっている。

モモのおねだりに嫌とは言えない父とそれを一喝する母親。

こんな風に平和に話し合いが終わることを願った。
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