10年越しの恋
「あのね、堀江君とのことなんだけど」


みんなの空腹がある程度満たされた頃を見計らって話し始めた。


父も母もTVに視線を向けたまま私の方は見ない。


「この3月に大学卒業するんだ。それで…」


「それで?」


全く興味なさそうにしていた父がグラスを手にこちらを振り向いた。


「二人でお金を貯めて年明けに結婚したいなって思ってるんだけど」


「瀬名、お前達がそう望むなら私たちは何も言わないし出来る限りの援助はするつもりだ。でもな、向こうの親御さんの態度があの日のままならお前が苦労するのは目に見えている。瀬名は本当にそれでいいのか?」


予想外の優しい態度に戸惑う。父の言葉にうなずく母も同じように考えていてくれたんだと一目で分かった。


「いっぱい心配かけてごめんなさい。これから先もどうなるかは分からない。でも雅紀と一緒にいたい」


「雅紀君のご両親とは話し合ったの?」


「まだだけど…。」


「じゃあきちんと話し合った上でまた報告して。私達が反対することはないから」


「わかった、ありがとう」


それ以上何も言えなくなって自分の部屋へと駆け上がった。

もっと嫌な顔をされると思った、反対されると思った。

でも二人は私が知らないうちに話し合っていてそれで、何もなかったみたいに受け入れてくれた。

まぁちゃん、私達が思ってるほど反対されてないみたいだよ!

そう思うとずっと重くのしかかっていた暗く重いものが晴れる気がして体も軽くなった。

夜の電話も私は嬉しい気持ちのままで、ちょっとだけ出た勇気のおかげで卒業式にも出席することを伝えた。


「やっと卒業! よく頑張ったね」って。

笑い合うことが出来たんだ。
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