10年越しの恋
「不思議?」


佐倉教授にとって私は掴みどころのない生徒だったらしい。

「やる気があるのかないのか全く分かりませんでした。でもこれだってものに向かっていく時のあなたのバイタリティーには驚かされました。授業にも出てこないかと思ったら自分で目標を見つけてアメリカにまで行ってしまったり、卒論からも逃げるかなと思っていたら立派に書き上げてきたり。わからない人です」

褒められているのか貶されているのか、でもその評価に忘れていた何かが心の中に沸々と湧き上がってくるのを感じた。


「先生、人生に遅いってことはないですよね? 自分がきちんと命と向き合える人になって、それから誰かが生きたいって願うその気持ちを支える仕事に就きたいんです」


「岩堀さんらしいと思います。いつでも前に進む準備ができた時に連絡してください。出来る限りのお手伝いはしますから」


ずっと見ないようにしてきたかつての自分。目標を見つけたらそこだけに向かって自分勝手にがむしゃらに歩き続けてきた。

もしかしたらそんな私に何かを教えようとして華ちゃんは私たちの元にやってきたのだろうか? ふとそんなことを考えた。

教授室から出て3つの校舎をつなぐ中庭に出ると、今しがた式を終えたばかりの華々しい空気を纏った卒業生たちの姿が見えた。

艶やかな衣装に身を包んだ女の子達と入学式以来であろうスーツに身を包んだ男の子は春の風に負けないぐらい新しい何かを生み出す力強い雰囲気を醸し出している。


「私も頑張りますか!!」


そう呟いて雅紀の元に向かった。
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