10年越しの恋
でも簡単には許すという言葉を口にすることは出来なくて、ただ頷くしかできなかった。

すると誰に話しかけているのか分からないような視線のまま、さえちゃんが言った。


「私も結婚駄目になったんだ。直前に婚約破棄されたの。その時になってやっと自分が瀬名さんにしてきたことの卑劣さを自覚した。ごめんなさい」

「そうですか」

今度は素直に頷き返すことができた。

それは…。知ってたから。さえちゃんの縁談がダメになったこと。

内心笑ってなかったかって聞かれたら否定は出来ない。

最低だとか、いろんな意見があるだろうけど自業自得だとも思ったり。


でもね、


雅紀のお母さんに言ったこともさえちゃんに言ったことも嘘じゃなくて本心だった。

二人を恨んでも、環境を恨んでもどうしようもなくて前に進むしかない。

雅紀のお母さん。 姑との確執があって、おまけに小姑にまでもいじめられて大変だったこと、でも最期まできちんと家で介護した強い女の人だったってことをこの日初めて知った。

だからこそ長男である雅紀を溺愛する気持ちが少しだけ分かるような気がした。
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