10年越しの恋

将来の夢

翌日 大学へ向かう電車の中。
自宅からは1時間以上の道のり。本を膝の上に広げたまま車窓を流れる景色を見ていた。

週末のことを思い出す。自然にゆるむ頬。そんな自分に気付いて周りを見渡す。もちろん誰も見ていない。でもはずかしくなり慌てて本を手にとって視線を移した。

校舎へと続く坂道。まだ夏休み中いう事もあり人影もまばらだ。今日は3年生からのコース選択説明会の為学校へ来ている。学科の違うさやとまさよはいない。

~1年前~

入学式の後行われたオリエンテーション会場。一番大きな教室。階段状に配置された座席は多くの新入生で埋っていた。入学、新しい生活への期待で興奮気味のたくさんの人たちの熱気に少し圧倒されていた。
同じ高校からの友達もいない私は、一番上段にある入り口付近の壁にはりつくようにして立っていた。

「すみません これって座る場所って決まってるんですか?」

「ごめんなさい 私も分からなくって困ってるの」

「じゃあ一緒に座りませんか?」

黒いシンプルなワンピースに身を包んだすらっと背の高いきれいな女の子。さやだった。
今でも二人の出会いを聞かれると思い出してこう言う。

私が瀬名をナンパしたんだよね。

適当に空いている席を探し座った私たちの前に座っていたのがまさよ。
さやと私を見て、一目で友達になりたいと思ったらしい。

オリエンテーションもほどほどに私たちはお茶をしに行った。時間も忘れて話をした。

ナンパと一目ぼれから始まった3人。

学科も違ったし、他に仲のいい友達も何人かいたが、私たちは空き時間が合うように時間割を組んで3人でしょっちゅうつるんでいる。


そんなことを思い出しながら指定の教室へ続く階段をのぼっていた。

「瀬名ちゃん~ 遅れるよ~」 ケンだ。

「先行って席取っておいて~」

「了解!」そういって階段を駆け上がっていく。

そのうしろ姿を急いで追いかけた。
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