10年越しの恋
運良く空いていたんだろう。1番後ろの端、特等席をケンが確保してくれていた。ケンはなぜかいつも1人で授業を受けている私を気にかけてくれる唯一同じ学科の友達だ。

「久しぶりだよね。元気にしてた?」

「おう、夏休みはサークルの合宿やらバイトが忙しくってさ。瀬名ちゃんはサークルやめたんだって?」

「あ~ うん。なんかね。さやとまさよは早々と半年ぐらいでやめちゃうし。私はほら、サークル内に彼がいたりしたから辞めづらくってずるずる続けてたんだけど。卒業していなくなったからもういいかなってね。それに基本的に集団生活苦手だし」

「ははは、なんからしいよな。そんな感じだもんね。集団苦手そうな感じする。」

「彼女とは上手くいってるの?」

「瀬名ちゃんはどうなんだよ。新しい彼と食堂の前歩いてるの見かけたよ」

長くどうでもいい学部長の話の間、お互いの近況を話していると、やっと必要な手続きの説明が始まった。

「瀬名ちゃんはコースもう決まってるの?」

「うん 臨床心理コース」

私は受験校を探す時、心理学を専門的に勉強できる大学1本に絞っていた。今では多すぎるほどに増え、ほとんどの大学で専攻することができるが、当時は数えるほどの学校にしか設置されていなかった。そのため帰国子女枠だけでは厳しいと考え大検資格も取ったのだった。

小児ガンに苦しむ子供とその親の心のケアーに関心を持っていた。カウンセリングの分野では日本より遥かに進んでいるアメリカで高校生活を送った影響だった。

「ケンは?」

「俺は歴史コースかな…。まあ普通に就職する予定だから一番単位が取りやすそうなのがいいかな~って 心理は超厳しいって言うし…。社会学は今の般教と変わらないっぽいし」

「そっか~ コース離れても、その顔の広さを生かしてノート集めよろしくね!」

「はいはい でもAランチだよ。」

結局説明はほとんど聞かず、こそこそ雑談に花を咲かせて終わってしまった。
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