10年越しの恋
「俺の家が会社やってるのは知ってると思うんだけど、案外歴史がある感じで、じいちゃんの時代なんかはそこそこでかい会社だったみたいなんだ。あの家にもお手伝いさんがいたって」

「うん」

「そんなだからさ、長男で生まれた俺はずっと物心ついた時から跡継ぎだって。当り前のようにそんな風に言われてて。だからそれなりの学歴っていうのをつけさせようとした親にいわれるまま中学受験して、ほんと何にも考えないで学校通ってたんだ」

少し昔の自分を思い出し、複雑な表情。

「高2の頃だったかな? なんか進路指導とか始った頃、将来決まってんのになんでこんなことしてるんだろって。反抗期だったっていうのもあるんだけど、馬鹿馬鹿しくなって高校やめたんだ」

初めて聞く話だった。いままでたくさんの話をしてきた。でもなんとなく2時間近くかかる通学がめんどくさくて、ガリ勉ばっかりでおもしろくないから辞めたそんな風にしか話してなかったから。

「そうだったんだ・・・」それ以上言葉が続かず黙りこんでしまう。

「だからさ、最初大学だけはって言われて予備校に行き始めた時もどうせどこの大学行ったって同じとか思ってたし」

「うん」

「でもそんな時瀬名に出会って、ちゃんと心理士になるっていう夢もってがんばるの見てたら大学ぐらいは自分で決めたいなってそう思ったんだ。でも今までの投げやりな生活から抜け出せなくてこの結果、最低だよな」

悔しそうな雅紀。

「だからさ、来年もう一回頑張りたいそう思うんだけど…」

固く心に決めた気持ちを真剣に目を見て話す雅紀に返事は決まっていた。

「いいんじゃない? 頑張って! 応援するよ。まあちゃんの人生なんだから。現役でだめで浪人する人なんていっぱいいるんだし」

そんな私の言葉にようやく表情を緩めた。

「来年合格して、一緒に大学通おうね。まあちゃんと一緒なら私のサボり癖も治るかも」

そうやって笑いあった。
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