10年越しの恋

=冬= 未来への一歩

12月初旬

まさよと二人。お互い5限までの授業を終え、正門前で待ち合わせていた。


「後期の5限は辛いね。終わると真っ暗」


「だよね。ねぇ!お腹空かない? 駅前でパスタでもどう?」


「行っときますか?」

そんな二人は山から吹き下ろされる風に乱れる髪を抑えながら歩いた。


二人きりで会うのはあのまさよの告白以来初めてだ。

そんなことを思い出して少し緊張する。

まさよもそうなのだろう。

注文を終えるとすぐに煙草に火をつけた。


「相変わらず雅紀くんと仲良さげだね」


「そうかもね。喧嘩してもみんなには兄弟げんかだってあしらわれちゃうし」


「そうだよ! 瀬名と雅紀くんの喧嘩おもしろすぎるもん」


固い笑顔。運ばれてきたサングリアを口に運びながら、まさよの顔が陰る。


「私ね、結局上手くいかなくて別れたんだ」

あの日から付き合い始めた二人。

仕事が忙しいという浩一に、まめに山口へと足を運んでいた。その費用を貯める為、今までしていなかったバイトを始めた。毎日のメール、電話。自分ができる限り尽くした。

でも、それ以上の詳しい話は口にしない。
二人が別れた理由を聞くことはなかった。

初めての恋。募る気持ち。
誰にも相談出来なくて、何度も一人で泣いていたんじゃないか。そんな風に思った。


浩一を大好きだと言ったまさよ。


「なんかごめん、一人で辛かったんじゃない?」


「ううん、いいの。そんなの分かってたことだし。覚悟決めて付き合ったんだから。でもちゃんと瀬名に謝りたかったんだ。あの時、私自分の気持ちにいっぱいいっぱいで周りみえてなくって迷惑かけてごめんね」


初めて恋をしたまさよ。抑えることができない自分の気持ちに戸惑っただろう。誰もが経験する感情。
そんな風に一言で済ますこともできるかもしれない。

でも、きっと大切なかけがえのない思いだと。

私はそう思う。

たとえそれが悲しい思い出になってしまったとしても…。


「もういいから。昔の話だよ! まさよも辛かったんだし。聞いてあげられなくてごめん」


そう笑う私の目の前に、一つの恋を終えて強くなったまさよの泣き顔があった。
< 82 / 327 >

この作品をシェア

pagetop