10年越しの恋
正門前で「じゃあね」そういって別れた私たちは各自目的の教室へと走った。


なぜかぞくぞくと生徒が教室から出てくる。

「休講にするならもっと早く教えて欲しいよね」

そんな声に急いで教室を覗くと大きなホワイトボードに、『教授急病のため本日休講』の文字が。

この授業だけのために来たのに! 私たちの出席にはうるさいくせにそう思いながら雅紀へとメール。

”休講だって。最悪だよ~。今授業中かな?”

すぐに返信が返ってきた。

”今日西田も休みで、今一人で8号館、大教室だよ”

誰もいないエントランスに講義をする声だけが響く。

そっと雅紀の姿を探す。

後ろから3番目。人もまばらな大きな教室で突っ伏して寝ているのが見える。そっと近付いて横に座った。


「この授業出なくていいんじゃないの?」」


「びっくりした! 瀬名が授業だって言うから」


「じゃあ、出てどっか遊びにいこう!」

こそこそと荷物を持って教室を抜け出した。


「久しぶりにあの海岸でも行ってのんびりする?」

大学からまっすぐ、山側から海側へと続く道を延々下った先にある海浜公園。よく一人でも訪れる場所。


「うん! 今の時間からだと夕日きれいなんじゃない?」


急な坂道、右側の雅紀。その左手を軽く握る。

そのまま道を下りながら、20分程の道のりをゆっくりと進んだ。

初夏の砂浜には犬の散歩をするわずかな人影しかない。

その場に腰を下ろした。わずかに日の陰りを見せる太陽。

二人で、波の音を聞きながら目の前をゆっくりとすすむタンカーを見ていた。


「なんかいいね。穏やかで」膝を立てて座り、空いた両手で砂を手の平にすくって日に透かすようにさらさらとこぼれていくのを眺めていた。

再び砂を掴もうとした右手をやさしく握った雅紀。


「ごめんね、ちゃんとぜったい守るから。幸せにするから」


「どうしたの?」そう尋ねた私の手をそのまま引きよせやさしくキスをした。

うん? 軽く首をかしげるように雅紀の顔を見る。


「なんでもない…。ただなんとなく、そう思ったから」


変なの、そう思いながらだんだんと沈む夕日を見ていた。
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