10年越しの恋
雅紀の待つ10号館へと急ぐ。
去年から全面禁煙になった大学ではこの校舎がスモーカー達に人気の待ち合わせ場所だ。

予想通りエントランス一番奥の中庭で西田くんと灰皿を囲んでいる。楽しそうに話をしていた二人は扉を開いた私に気づき手を振った。

「待たせてごめんね」

西田君は少し緊張した様子でぺこっと頭を下げる。

入学以来、雅紀とは同じフットサルのサークルに入ったりと1番仲のいい友達だ。よく3人でお昼を食べたり、練習の後飲みに行ったりしている。


「こいつさ、なんかさっきからそわそわしてて。瀬名さん来るんだよね…。って」


「お前そういうことは言わなくっていいんだよ」


ひじで押し合う二人。


「まあまあ、西田君もいい加減慣れてよ。私そんなに怖い?」笑いをかみ殺しながら尋ねると、


「いや、怖いとかじゃなくて。その、年上の女の人とそんなに話とかしたことないんで…」


「瀬名は年上って言っても、天然のおこちゃまだから大丈夫だよ」


「ひどい!」


そんなやりとりに3人で大笑いした。

「じゃあ行こっか?」雅紀の声に煙草を消して、歩きだす。正門前まで来ると「今日車で来てるからここで待ってて」とキーをジーパンのポケットから取り出しながら、一人駆け足で行ってしまった。

取り残された西田くんと2人、妙な沈黙に照れ笑いを浮かべていると、メールの着信音が鳴った。


「ちょっとごめんね」メールを開く。さやだ。


”今日まさよとゆうと飲むよ!遅くなったけど雅紀君の入学祝いを兼ねてご一緒いかが?”

ちょっと面白いかも!そう思って携帯から目を外し


「ねぇねぇ西田君、今日これからお姉さんたちと飲み会しませんか?」からかうように言ってみた。

=車内=

「瀬名さんひどいですよ。俺が困るのわかっててあんな振り」


「ごめんねー。だってからかうと面白いんだもん。で、どうする? 行く?」


「じゃあ俺はおやじの会社の駐車場に車置いてから追いかけるから、西田と瀬名先に行っといて」


みるみる困り顔になる西田君。


「大丈夫だって。みんな優しいお姉さんだから」

車から降りた西田君の手を引っ張って、一足先に店へと向かった。 
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