10年越しの恋
=7月末= 

出発を明日に控え深夜にパッキング。長時間のフライト中爆睡するために、前日は寝ないのが瀬名流の海外旅行準備だ。

ようやく部屋の中央に広げたスーツケースに大量の荷物が収まった。

ベットサイドの小さな本棚の上で携帯が震える。

「もしもし、瀬名? 起きてた?」

「うん、今パッキング終わったとこ」

「忘れ物ない? 忘れ物の達人だから」

そんな雅紀の声が少し寂しそう…。やっと勉強から解放された自由な夏休みなのに…。

「うん、大丈夫。ごめんね」

「なに言ってんの! 俺は夢とかないから、がんばる瀬名が羨ましいんだよ。」

「うん、ありがとね」

「明日、10時でいいんだよね? 迎えに行くから」

「じゃあ、明日ね。愛してるよ。おやすみ」

『ありがとう』そう心の中で呟いて電話を切った。


=出発当日=

「瀬名! 雅紀君来てるよ~」

そんな声に慌てて階段を駆け降りる。

「お母さん! もう迎えに来てるの? パスポートがない!!!」

「だからあれだけ昨日のうちに用意しときなさいって言ったのに…」

「これじゃないの?」

電話の横に置いてあった小さな赤い冊子を掲げる。

「あった! それ! じゃあ行くね」

「いってらっしゃい、気をつけてね。雅紀君、うちの馬鹿娘をよろしく」

「行ってきます!」そう言いながらもばたばた落ち着かない私を玄関まで母が見送ってくれた。

空港へ向かう平日の高速道路は車も少なく快適だ。

いくつかのトンネルを抜けると空港へと向かう為の橋が見えてきた。やけに高い通行料だがここからの景色は最高だと思う。太陽が一番高い場所にあるこの時間は穏やかな海面に光が反射して輝く。
窓の外を流れる景色をそのまぶしさに目を細めながら楽しんだ。

だだっ広い駐車場に車を停め、荷物をトランクから出す。

「瀬名~ この荷物重すぎるよ。何がこんなに入ってるの?」

「えっ? いろいろだよ。たぶんシャンプーとか化粧品とか瓶ものが重いんじゃないかな? あとチンするご飯とか」

「ご飯か!必需品だよね。向こうで自分で運べる?」

「多分…。何とかなるよ」

苦労しながら運びだした荷物を押してターミナルへと向かった。
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