ヒーロー
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茹だるような暑さが夢や幻だったかのような、冗談みたいに冷たい風が、身体を無意識に震わせる。
午後11時32分。東中の正門は当然のごとく閉まっていたが、職員室だけは残業の教師が頑張っているのか、まだ明かりがついていた。
正門前の花壇に腰を下ろすと、煉瓦の冷たさがスウェットを通して肌に伝わる。
「…さぶっ」
誰にともなく悪態をついた僕は、両手にはぁっと息を吹きかけて、暖をとった。
「もっと着込んで来るんだった」
僕が後悔の言葉を口にすると、目の前の道路を、一台の大型バイクが通過していった。
「あっ」
フルフェイスのヘルメットと、一瞬目が合った。
バイクは20メートルほど先の路肩で停止し、大柄なライダーはヘルメットを取るとバイクから降りて、僕の方へのしのしと歩いてきた。
「よう」
不良に絡まれたみたいな図には見えるかもしれないけど。
右手を挙げて短い挨拶を寄越した彼はこれでも、僕の元チームメイトで、友達で、ヒーローだった、倉木ケントだ。
「久しぶり」
僕も花壇から立ち上がり、右手を挙げて短い挨拶を返す。
冷たい風が再び一陣びゅうっと吹いて、道路沿いの並木をざわざわと揺らしていった。
茹だるような暑さが夢や幻だったかのような、冗談みたいに冷たい風が、身体を無意識に震わせる。
午後11時32分。東中の正門は当然のごとく閉まっていたが、職員室だけは残業の教師が頑張っているのか、まだ明かりがついていた。
正門前の花壇に腰を下ろすと、煉瓦の冷たさがスウェットを通して肌に伝わる。
「…さぶっ」
誰にともなく悪態をついた僕は、両手にはぁっと息を吹きかけて、暖をとった。
「もっと着込んで来るんだった」
僕が後悔の言葉を口にすると、目の前の道路を、一台の大型バイクが通過していった。
「あっ」
フルフェイスのヘルメットと、一瞬目が合った。
バイクは20メートルほど先の路肩で停止し、大柄なライダーはヘルメットを取るとバイクから降りて、僕の方へのしのしと歩いてきた。
「よう」
不良に絡まれたみたいな図には見えるかもしれないけど。
右手を挙げて短い挨拶を寄越した彼はこれでも、僕の元チームメイトで、友達で、ヒーローだった、倉木ケントだ。
「久しぶり」
僕も花壇から立ち上がり、右手を挙げて短い挨拶を返す。
冷たい風が再び一陣びゅうっと吹いて、道路沿いの並木をざわざわと揺らしていった。