ヒーロー
僕とケントは、こっそりと学校内に忍び込んで、懐かしさに溢れるグラウンドを並んで歩いた。



僕は手ぶらだったが、ケントは何かの帰りなのか、大きなエナメルバッグを肩に担いでいる。



昔話をしながらテニスコートとグラウンドを抜け、体育館のわきをしばらく歩くと、中学時代に汗を流した、武道場が見えてきた。



「変わってねぇなァ」



「うん」



中学時代は、授業以外は武道場で大半の時間を過ごした。技の研究をケントとやったり(大抵は僕がケントの技の実験台だった)掃除している後輩にちょっかいをかけたり、柄じゃないけど恋バナってヤツも、汗臭い野郎だけで集まってよく盛り上がった。



武道場の前まで来ると、ケントは意地の悪そうな笑みを浮かべ、ポケットから一本の鍵を取り出した。



「なに、それ」



「ここの鍵。卒業するときにパクったんだよ」



ケントは中学時代、柔道部のキャプテンだったから、顧問の先生から武道場の合鍵を受け取っていた。



卒業と一緒に返すことになっているはずなんだけど。



「はは。固いこと言うなって」



そう言うとケントは金色の南京錠に小さな鍵を突っ込んだ。



鍵を回すと、カチリと小気味良い音がして、南京錠がケントの手のひらの上にポトッと落ちる。



「何する気?」



「武道場だぞ?柔道に決まってるだろ」



事も無げにケントが答える。



「ええっ?聞いてないよ」


「言ってねぇモン」



小学生の時から変わらない無邪気な笑みとともに、ケントがハハハっ、と笑って見せた。
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