ヒーロー
ジャージに着替えた僕とケントは、こっそりと武道場を抜け出して、再びこっそりと扉の鍵をかけた。



バカみたいに冷え込むグラウンドの端に、白くペンキが塗られた朝礼台が淋しそうに佇んでいる。



そこにふたりして腰をかけると、ケントがポケットからタバコを取り出す。



いるか?という素振りで差し出された箱をやんわりと断ると、ケントはそこからタバコを一本取り出して、ライターで火をつけた。



「アユム、選手宣誓もやってたよなァ」



ふぅっとタバコをふかして、ケントが言った。



「やったねェ」

「答辞もやったよな」

「やったねェ…」



「…やっぱウソだろ」

「何が?」



「俺みたいになりたい、って」

「ホントだってば」



「まァ、良いけどサ、別に」


根元までタバコを吸い終わると、ケントは吸殻をグラウンドにぽいっと放った。



「コラ」

「あ、ワルイ」



僕が一喝すると、ケントはひょいと朝礼台から飛び降りて、吸殻を拾ってきた。



「よろしい」

「ハハ。サーセンサーセン」



ケントは再び朝礼台に腰をかけて、苦笑しながら頭をわしゃわしゃとかいた。
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