ヒーロー
「あー、楽しかった」



ケントはもう一本タバコに火を点けて、満足そうに煙を吐いた。



「柔道やるの久しぶりだった?」

「んー、1ヶ月くらいやってなかった」



1ヶ月ブランクが空いて、あの強さ。本当に頭が下がる。



「アユム」

「ん、なに?」



ケントが夜空に向かって、ふぅ…っと大きく煙を飛ばす。



「ありがとな」

「やめてよ。俺も久しぶりにケントと柔道やれて、楽しかった」



「あと…心配かけてごめん」

「…いいって。もうケンカしちゃだめだよ?」

「あァ。約束する」



美しい秋の夜空を見上げながら、ケントが呟いた。



ホラ。
ケントはやっぱり普通だ。

普通に素直で、

普通に真面目で、

普通に強くて、

普通に優しい。



見た目は普通に怖いけど。



だからケントはやっぱり僕の友達で、

やっぱり格好いい。



「ケントは、俺のヒーローなんだから」

「ハハハ。なんだそれ」



「いいんだよ。ケントは俺の憧れで、俺のヒーローなんだ。だから、ケンカなんてもうするなよ」

「分かったよ。二度としない。アユムに言われたら断れねェ」



お互いにハハハ、と笑い合って、またふたりで夜空を見上げた。



幻想的なまでに美しく、
魅惑的なまでに儚げな月明かりの下、

また一瞬の間を置いて、ケントが呟いた。






「アユムを柔道誘って良かったわ」


「俺も。ケントの口車に乗って良かった」



ふたりの笑い声が、懐かしすぎるグラウンドに高らかに響いた。
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