ヒーロー
校舎の方から、黒い影がこちらに向かってくるのが見えた。



「ゲッ。やば。騒ぎすぎたか」



ケントはタバコを急いで揉み消し、朝礼台から飛び降りる。



僕もそれに続いて朝礼台から降りた。



「どうする?」



悪そうな笑みで僕の顔を覗き込むケント。



「ケンカはNGだって言ってるだろ」

「分かってるよ。じゃ、逃げるぞ!」



そう言うが早いか、ケントは道着の入ったエナメルバッグを担いで、凄まじい勢いで走り出した。



「うぉっ、ちょ、ケント!」



なんと言う瞬発力。なんと言うスピード。重力を無視するような走りのケントを追って、僕もケントに借りた道着を担いで駆け出した。



「捕まっても知らないぞ!バイクのトコまで来い、アユム!」



「速ァ…待ってよ、ケント!」



グラウンドを風のように駆けていくケントを、僕は必死で追いかけた。



中学の教員らしい人影を背にグラウンドを抜け、テニスコートの脇も全速力で通過する。



正門から外へ飛び出すと、目の前の道路に大型バイクに乗ったケントがもうエンジンをふかして待っていた。



「ほいっ!」



「わっ…」



ケントが放ったフルフェイスのヘルメットをかぶると、バイクの後部にまたがる。



「よっしゃ、エスカルゴ!」

「多分だけど、エスケープって言いたかった!?」

「そう、ソレソレ!」



そう言うと、ケントのバイクはけたたましいエンジン音を高鳴らせて発進した。



後ろを振り返ると、黒い人影が4~5人正門の前に見えたけど、バイクがカーブを曲がってすぐ、視界から外れて消えた。
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