ヒーロー
僕の家の前で停止した大型バイク。



時刻は深夜の2時過ぎ。



バイクに乗るには薄着過ぎたし、汗がすっかりひいて体温をしっかり奪われた。ヘルメットを取ってバイクから降りると、くしゃみが2回連続で出た。



「大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫」



強がりを言いながら、ヘルメットを返す。自分のヘルメットを貸したせいで、ケントは思いっきりノーヘルだった。



「またやろうな」

「今度は前みたいに町の道場借りようよ。お金なら出すから」



「えー?忍び込んだりするから楽しいんだろ」

「…まァ、楽しかったケドさ」



だろ?ハハハ。と、ケントが笑う。それにつられて、僕も笑った。



「さァて、帰るか」

「気をつけてね」

「おう」



再びバイクにまたがるケント。



「アユム」



ヘルメットを被ろうとした手を止めて、ケントが僕の名前を呼んだ。



「ん、なに?」

「その…、アレだ」



「なんだよ」

「俺、頑張るからさ」



でかい図体に似合わないはにかんだ笑顔で、ケントが言った。



「…うん。頑張れ、ケント!」

「おう!」



それだけ言ってケントはヘルメットを被り、バイクのエンジンをかけた。



左手をひょいと挙げて僕に合図をすると、轟音を響かせてバイクは夜の道路を走り去っていった。



その後ろ姿は、やっぱり大きくて、格好よかった。
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