ヒーロー
中学1年の春。悩みに悩んだ挙げ句、ケントの押しに負けた形で柔道部に入った僕は、その壮絶な稽古と先輩の強さにただただ狼狽した。



最初の1年は、先輩たちに畳に叩きつけられ続ける毎日。筋トレなんてほとんどしたことのない僕にとって、練習後の腕立て伏せ50回は、拷問だった。



そんな中、苦痛続きの部活にあっても、ケントは光っていた。



もともと地元の道場で稽古をしていたのもあって、1年生ながら先輩たちに混じって稽古をしていた。



2年生を投げてしまうこともしばしばだったし、なによりも、楽しそうに柔道をしているケントが、どうしようもなく眩しかった。



ケントみたいになりたい、ケントのようになれたら、と、そう思った。







中3になって、ケントは荒れだした。いわゆるヤンキーってヤツ。学校に制服で来ないのはいつものことだし、先生にすごむこともよくあった。



だけど、ケントはクラスメイトには優しく、他クラスからぶんどってきたらしい給食のプリンをクラスのみんなに分けたりしていた。



授業をサボることがあってもクラスのヤツが呼びに行くと大人しく帰ってくるし、自分の悪口を机に書かれて暴れまわったときも、クラスメイトだけは決して疑わなかった。



なにより、とにかく部活に真面目で、何かに取り付かれたように稽古に励んだ。その取り組みが評価されてケントは柔道部のキャプテンになった。



ケントの姿勢に引っ張られて、柔道部は十数年ぶりに県大会でベスト4に入り、地方大会出場を果たす。



あの時の練習は、地獄というに相応しいほどの稽古量だった。思い出すだけで頭痛がする。



それでも、ひたすら楽しそうに練習するケントが眩しくて、僕も必死で稽古についていった。



ケントみたいになりたかったから。



結局中学3年間で7回あったケントとの公式戦は、ただの一度も勝てなかったけど。



最後の2回は判定までもつれた。内容はボロ負けだったけど、その試合は今でも覚えている。
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