私の彼氏
その日、河合は店が終わると、下の喫茶で山崎と会う約束をしていた。

「もうあがっていいぞ」

激しい雨が降っていたこともあり、客はもう来ないと考えたのだろう。五月がそう言った。

どうせ、先に帰らせて三人でやるのだろう。いやらしいわ。

「じゃあ、お先に失礼します」

「おい、コンセントに刺さったままの携帯の充電器は持って帰らなくていいのか?」

五月が私に嘘の優しさを投げかける。

「うん。家にもあるから」

と言い河合は店を出た。

その充電器には盗聴器が仕込んであるのだ(持って帰るわけにはいかない)。

河合が喫茶に入ると、先に来た山崎が老婆と話している。

「おまたせ」と河合が言うと、「本当にお疲れ様でした」と山崎は労をねぎらった。

「やっぱり、ママを連れていってよかったですよ」

山崎は何かを得たようだ。

「でも、何も話せなかったじゃないの」

と言うと、山崎は首を横にふった。

「あたしゃの言ったことが、何か役にたったんかいな?」

「ええ、とっても」

「同じことを話すのは嫌じゃから、お前さんが話してやっておくれよ」

「はい」
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