世界の果てまでキミと一緒に。
「桜子?」
ドアノブに手をかけた千尋様は、こちらを向いて私の名前を呼んだ。
「はい……」
突然、名前を呼ばれた私は“ビクン”と肩を揺らした。
「名前……」
「えっ?」
「“様”はいらない」
ここに来て1週間。
私は今日、初めて彼の名前を呼んだ。
自分でも驚くぐらい躊躇なく口から出た彼の名前。
「でも、私はアナタの奴隷ですから……。ご主人様であるアナタの名前に“様”をつけるのは当たり前ですから……」
1週間前の自分からは想像出来ないぐらい、また躊躇することなくポンポンと口から出てくる。
驚いたように目を見開き、私を見ているのは千尋様の方だ。
“千尋様”と呼ばれることに慣れている彼が驚いている。
「好きにしたらいい」
「はい、好きにします」
そう言った私は彼に笑顔を見せた。
「笑えるんだな」
そう呟くように言った千尋様はクスッと笑った。
あ、そうだ……ここに来て初めて笑ったかも……。
1週間前は、ただただ怖くてどうしようもなかった。
でも、たった1週間で、この非日常的な生活に慣れてしまったのかもしれない。