わかれあげまん



「あ、…たし…帰るよ…。」



「……。」



「やっぱ、ここに居ちゃだめ、だし。…」



「何で?」



「な、…なんでって、…」



焦燥と困惑満面に見上げた哉汰は、真逆にひどく落ち着いていて、色っぽい微笑さえ浮かべていて、柚の胸がまたドキンと跳ねあがる。


泳がせた目を外したのをいいことに、哉汰の指がさっきよりも無遠慮に頬にはっきりと触れてきた。



頬からさえ、ドキドキが伝わってしまいそう。



柚はぎゅうっと目を閉じ、瞼を震わせた。



あたし今きっと、いけないことをしてる。



誰かを傷つけたくなんてない。



「フ。」



ため息にも似た哉汰の笑みが耳を掠めた。



「まったく。ほんと分かりやすいな。あんたって。」



< 323 / 383 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop