わかれあげまん




柚は以前に美也子から聞いた話を思い出していた。



ルチアが夜毎スポーツバーで、イタリア人の男性と派手に遊んでいたという、あの話。



藤宮くんにあんなに甘えていたルチアちゃんが、二股だなんてありえないと思っていたけれど…



「みんなして俺を…道具みたいに利用してたんだ。…笑えるだろ?」



「……藤宮くん…」



かける言葉が見つからなかった。



それを知った時…彼はどんなに傷ついただろう。






柚はもどかしげに唇を噛むと、こみ上げる涙を誤魔化すためにそっと顔を背けた。




「反吐が出そうなほど最低最悪の出来事だったけど…一つだけいいことがあった。」



「…」



ゆっくりとまた、顔をこちらへめぐらせてくる哉汰に引き寄せられるように、柚も彼を見た。



穏やかなのにやけどしそうなほどの熱を帯びた視線が、柚のそれに絡まる。



「親父たちの仕組んだ罠のおかげで、気づいたんだ。」








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