心と、音で。─1年生編─
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広も中学生の頃からアルトサックスを習っている。


広は中学1年生の頃からずっと1stを吹いている実力者。


ソロコンテストは毎回最優秀賞。
誰だって、広の音色には適わない。


アルトサックスらしい華やかな音から元気でパワフルな音、深みのある優しい音、艶のある色っぽい音まで、広は奏でることが出来る。


私は、広が生み出す音色が大好きなんだ。


誰よりも、どの楽器よりも。


広の実力を、人は“才能”だと言う。


確かに才能も一部あるかもしれない。


でも私は、あの実力は広の“努力の賜物”なんだと思ってる。


高校でも、あの素敵な音色を聴かせてくれるんだろうな。


自然と、頬が緩んだ。


その時。


「何一人でニヤニヤしてんだよ」


左を向くと、そこには人の顔。


「わぁぁぁぁっ!びっくりしたーっ」


「俺は幽霊でもねぇんだから、そんなに驚くなって」


弟の拓海だった。
拓海は今中学3年生で、吹奏楽部でクラリネットを吹いている。


一応、パートリーダー兼コンサートマスターだ。


「拓海、部屋入る時はノックしてよ」


「俺はノックした。お前が気付かなかっただけって」


そう言うと拓海は、私のスマートフォンの画面を覗き込んだ。


「ちょっと、覗かないでよ」


「…また広先輩とのメールかよ」


「ダメなの?」


「お前、広先輩とばっかメールしてんじゃん」


「そうかな?」


「自覚ねぇのかよ」


拓海は若干呆れ気味だった。


「まぁいいけどさ。それより…」


「よいしょ」と言いながら、拓海は私のベッドに座った。


「課題曲、決まったぜ」


「決まったの?」


拓海は軽く頷いた。


「今年もⅣでいくってさ」


「《エンターテイメント・マーチ》か!」


2013年度の吹奏楽コンクールの課題曲Ⅳは《エンターテイメント・マーチ》。


タイトルの通り、明るくて楽しいマーチ。
同じ課題曲のマーチ、Ⅱの《祝典行進曲「ライジング・サン」》よりは比較的易しい。


ただ、一つの不安がある。


「ピッコロ、大丈夫なの?」


「さぁ?課題曲がⅣになったと知った瞬間、もっさんは悲鳴あげてたぜ」


“もっさん”とは籾井亜優華という私の後輩。去年私が部活を引退したとき、ピッコロを引き継いだ。


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