心と、音で。─1年生編─
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何で“もっさん”が悲鳴をあげたのかというと。


今年の課題曲Ⅳの中盤に、長い長いピッコロのソロがあるからだ。


コンクールの課題曲でソロがあるだけでも大変なのに、それが長ければ長いほど、奏者にはプレッシャーになる。


でも事実、ソロの上手・下手は審査には殆ど影響しない。


「いつか、久々にみんなの様子見に行こうかな」


「ああ。もっさんをトレーニングしてやれよ」


「そうだね」


私はフルートの管を組み外し、手入れを始めた。


「で、自由曲の方は?」


「結局、《カルミナ・ブラーナ》になるらしい」


「ああ、あの金管殺しの名曲ね」


「そうそう。だからさ、今年は九州大会出場は厳しいかもしんねぇ」


「金管弱いもんね、今年」


「杏里も聴いててわかるだろ?今年の金管は木管より弱い。去年は木管の方が技術高い先輩が多かったけど、サウンドの厚みは金管の方があった。けど、今年の金管にはそれが無い。しかも」


拓海は自身の膝をトントンと叩き始めた。拓海はイライラすると、このような行動をする。


「去年の陽向先輩みたいに、金管全体を引っ張っていけるヤツが居ねぇんだよ」


去年、私達が現役の頃、金管全体をリードして演奏していたのは陽向だった。


陽向のリードがあったから、金管全体がまとまってたし、迫力のあるサウンドを生み出していた。


でも、今年の場合、金管全体をリード出来る3年生が居ない。


「金管でリード出来るやつが居ねぇと、今年の課題曲も自由曲もやばいんだよ」


拓海は頭を抱えた。


コンサートマスターである拓海にとっては、これは大きな問題なんだ。


「まぁ、どうにかするけどさ」


そう言う拓海の表情には不安が現れていた。


拓海を見ていると、去年の私達もこんな感じだったのかなと思った。


中学最後のコンクール。
本気にならないわけがない。


あの12分のために、みんなは必死に自分達の演奏を磨くんだ。


私達も、東海高校でもこんなに部活に必死になれるかな。


また、金賞を目指して、上位大会出場を懸けて、自分達の演奏を磨くことが出来るのかな──。


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