心と、音で。─1年生編─

新たな歴史

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◇◆◇2013年4月10日◇◆◇


この日の放課後。


私達は昨日須恵先生に言われた通り、音楽室に向かっていた。


「福西のセーラー、可愛いよね」


「えー?佐倉のブレザーの方が可愛くない?赤いリボンとか羨ましい!」


由希とあすかはさっき初めて話したばかりなのに、もう打ち解けている。
今はお互いの出身校の制服の話をしている。


結局、陽向と力からの返信はなかった。


会えたら話したいと思ったんだけど、タイミングが悪くていつもすれ違っていた。


もしかしたら、避けられているのかもしれない。


そう思った時。


「あ、杏里いた」


後ろから聞き慣れた声。
広だった。


「おっす、広君!よくぞ入ると言ってくれた!」


由希は愉快そうに笑いながら、広の肩をバンバン叩いた。


決して悪気があったわけではないらしいけど、広には結構痛かったみたい。


「痛い痛い。ったく、サムライはいつまで経ってもやる事が荒いな」


「はぁ?サムライ言うなボケェ」


「ボケって言うなバカ」


「バカって言った方がバカなんですよー」


「ちなみにサムライ、バカって漢字書けるの?」


「馬と鹿じゃ!それくらい知っとるわ!」


広と由希の口喧嘩を目の前に、あすかは唖然としていた。


「大丈夫、これ普通だから」


私はそう説明した。


後ろでぎゃあぎゃあ喧嘩してる二人を置いて、私とあすかは先に音楽室に行くことにした。


私が廊下の角を曲がろうとした時──。





ドンッ





誰かと正面からぶつかってしまった。


「すみません!」


ぶつかった相手は咄嗟に謝ってくれた。


「いえ、こちらこそ…」


その時、私はぶつかった相手と目が合った。


「陽向…!」


「あ、杏里…」


陽向だった。
隣には力もいた。


二人とも、気まずそうにしていた。


「二人とも、昨日メール見た?」


「ああ…」


「…見たよ」


ぼそぼそと力無い返事だった。


「吹奏楽部、入らないの?」


私の問に、二人は答えてくれなかった。


「杏里、その辺にしときなよ」


広との喧嘩に決着がついたのか、由希は気が付けば私の隣に居た。


そして、私にもうこれ以上言わないように促した。


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