心と、音で。─1年生編─
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「…情けないよね」


「…は?」


「“続けたい”って気持ちが少しでもあるなら、動けよ」


二人は、「意味がわからない」という表情をしている。


僕は続けた。


「悩むんじゃないんだよ。自分の心と体で確かめて、そして“自分が本当にやりたいこと”をはっきりさせろよ」


「……。」


そうやって迷えばいいさ。


そして見つけるんだ。
“自分が本当にやりたいこと”を。


たとえそれが、吹奏楽じゃなかったとしても。


…いや、それは有り得ないな。
そう断言できる。


僕はもうこれ以上に言うことはないと思って、二人を背に歩きだした。


「…一つ、訊いていいか?」


さっきまで黙っていた陽向が、突然口を開いた。


僕は立ち止まって振り向く。


「広は…、何で吹奏楽を続けるんだよ」


意外とストレートで不思議な質問だった。


難しく考える必要はない。
理由は、これだけだ。


「好きだからだよ」


そう言い残して、僕はまた歩きだした。





【杏里side】


「こんにちは、先生」


「こんにちは。来てくれたんだね」


私達が音楽室に着いた時、既に須恵先生が待っていた。


少し遅れて、広がやって来た。


「君達に、手伝ってほしいことがあるんだ。こっち来て」


私達は、音楽室の隣にある、小さな部屋に案内された。


そこは音楽準備室だった。
でも、準備室というよりは、楽器庫と言う方が合ってるかもしれない。


たくさんの楽器ケースが、大きな棚に綺麗に整列していた。


さすがにチューバやコントラバスは大き過ぎて棚に収まらないから、床の上で静かに眠っていた。


「この高校には音楽準備室が2つあってね。一つは楽器庫としてつくられたみたいなんだよ」


だからたくさん楽器が収納できるのか…。


…ん?
“たくさんの楽器”…?


「先生」


「どうした?」


私は、ある質問を須恵先生にした。


「何でこんなにたくさん楽器があるんですか?吹奏楽部は、今年発足ですよね?」


「確かに、僕も思った」


察しのいい広も、既に疑問に思っていたらしい。


「いい質問だね。俺も今年赴任したばかりだから不思議に思って、いろいろ調べてみたんだよ。そしたら…」


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