心と、音で。─1年生編─
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先生は、一番手前にあったトランペットのケースを手に取った。


ケースは薄らと埃を被っていた。


まるで、何年間かその場に放置されていたかのように。


先生は、ケースのある面を見せてくれた。


「これ、読める?」


先生が指差したところには、白いペンで何か書いてあった。
インクが結構剥がれ落ちていて読み辛いけど、じっと見つめるとそこに何が書いてあるか、はっきりとわかった。


「東海高校吹奏楽部…?」


「そう。これ、どういうことかわかる?」


先生はトランペットのケースをしまうと、手に付いた埃をパンパンと払った。


広は確認のため、棚の中のアルトサックスのケースを取り出した。
そして、確信したらしい。


「過去に、吹奏楽部があったんですね」


先生はゆっくり頷いた。


「その通り。実は8年前まで、ここの吹奏楽部は活動していたらしいんだよ」


「じゃあ、廃部になったんですか?」


「そう。でも、何故廃部になったのか、理由がはっきりわからないんだよ。部員不足とか、指導できる顧問が居なかったとかっていう噂はあるけどね」


8年前だと、私達はまだ小学生だから、吹奏楽部の存在とか、廃部になった理由なんて知ってるはずがない。


「でも、楽器の数は充実してるんだよね。珍しい楽器もあるし。ただ、8年間も放置されてたら、さすがに楽器の状態も悪いはず…。それでなんだけど」


先生は私達に優しく微笑むと、楽器が収納されている棚を指差して言った。


「君達に、楽器の状態確認をしてもらおうと思う」


「こ、これ全部ですか!?」


私のオーバーなリアクションに、須恵先生は可笑しそうに笑った。


「自分が吹ける楽器だけでいい。軽く音を出して、使える楽器と修理が必要な楽器にわけてほしいんだ。そして、使える楽器は表面を磨いたりとか、オイルを差したりとかいう、メンテナンスをしてほしい」


「それくらいなら、任せてください」


頼もしい広は、早速棚から次々とサックスを降ろしていった。


私達も作業に取り掛かり始めた。

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