心と、音で。─1年生編─
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「あ、陽向君が照れてる」


由希がケラケラ笑った。陽向は少し照れ屋なんだ。


「あ、あんまり笑うなよなー!」


陽向は頬を膨らませた。


「陽向、フグみたいだよ」


私の向かいに座っている、女の子みたいに可愛い顔立ちをした男の子は、ケラケラ笑いながら言った。


「広(ヒロ)、てめぇ失礼な…」


「僕は正直に言ったまで」


若干毒舌気味のこの男の子は、河東広。広は続けた。


「あ、そういえばさっき顔赤くなってたし、もしかしてタコの方が良かった?」


「ひーろーっ!!!」


陽向が少し声を荒げて言うと、由希が右手の人差し指を自分の口元に当てた。


「しーっ、陽向君声が大きいよ。力(チカラ)君起こしちゃうでしょ」


「あ、悪ぃ…」


由希に注意された陽向はしゅんとなった。私は広の横に座っている人に目線を移した。


そこには、電車の壁に体を預けてスヤスヤ寝ている男の子の姿があった。この男の子は河東力。広とは双子の兄弟で、力は広のお兄さんになる。


力の寝顔は無防備で、その顔にはまだ幼さが残っていた。


「力、今日の明け方まで勉強してたんだってさ」


広と力が座っているシートの後ろに立っている陽向は、力の頭をツンと突いた。でも、力が起きる様子はない。


「ホント熱心だよね、尊敬するっ」


由希が力の寝顔を見ながら言うと、広は「はぁ」と溜め息を漏らした。


「熱心過ぎて逆に困るよ。ほら、力って朝弱いじゃん?弱いくせに夜中まで起きてると、朝起こしてもそう簡単には起きてくれないんだよ」


「じゃあ、今日はどうやって起こしたのさ」


「聞いてくれる?今朝マジで大変だったんだよ」


広は眉間に皺を寄せた。


「今朝さ、まず僕は普通に起こそうとしたわけ。名前呼んだり、体揺すったり。でも起きないから布団を剥いだんだ。そして…」


広の眉間の皺が、少し増えたような気がした。


「顔面を10回平手打ちして、それでも起きないから、そのまま洗面所まで引きずって行って、水を張った洗面器の中に顔をブッ込んだよ」


「それでやっと起きたのか」


「やっとね」


「…お前、毎日苦労してんだな」


陽向は、同情した。


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