心と、音で。─1年生編─
.


力と広は二卵性の双子。だから、顔がとても似てるけど、何故か性格はほとんど似ていない。


どちらかというと、弟の広の方がしっかりしている気が…。…やっぱりそれは黙っておこう。


「…そうだ」


私は、ふとあることを思いついた。私はニヤリと笑うと、鞄の中からゴソゴソと“ある物”を探し始めた。


「…ああ、そういうことか」


広たちも私が何をしようとしているのか察したらしく、それぞれの顔を見合ってニヤリと笑うと、それぞれの鞄の中から“ある物”を取り出した。












それから力が目を覚ますのに、そんなに時間はかからなかった。


「おはよう、力。よく眠れた?」


「…ん、杏里?おはよう」


私の言葉を聞いた力は数回まばたきをして背伸びをした。


「そっか。俺、寝てたんだ」


「夜中まで勉強してたからだろ?ちゃんと寝ないと体壊すぞ?」


陽向は力の肩をポンポンと軽く叩くと、さっき鞄から取り出した“ある物”を力に見せた。


「…………これって……」


「力の寝顔、撮っちゃいました☆」


「はい、消そうか。さぁ貸せ」


力は陽向から“ある物”を奪おうとした。でも、そこを広に止められてしまった。


「実は僕も撮っちゃったんだよね。ほら、綺麗に撮れてるでしょ?」


「……広、お前もか。ていうか、それは引く」


そう、さっき私たちが探していた“ある物”とは、スマートフォンのことだった。私たちは力が寝ている間に、スマートフォンで力の寝顔を撮影していた。


「とりあえず消しといて」


「はいはい。同中のダチに一斉送信してからなー」


「しなくていい!」


陽向は力をからかうのを楽しんでいた。


私は話題を変えようと、力に話し掛けた。


「…何か夢見たの?」


「夢?ああ、見たよ」


力は、どんな夢を見たのか私たちに話してくれた。


「確か、中3のコンクールの夢。何故か全国大会に出ててさ、普門館の黒舞台で、俺たちが演奏してたんだよ。課題曲と自由曲をね。…結構、楽しい夢だったよ」


「普門館?そんなん俺らの代じゃ無理じゃね?てか、去年の全国大会は名古屋のセンチュリーホールだっただろ」


「まぁ、夢だからね」


私は陽向と力のやりとりを聞きながら、車窓から見える景色を眺めた。


.
< 3 / 17 >

この作品をシェア

pagetop