心と、音で。─1年生編─
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「でも、全国、行きたかったね」


つい、そんな言葉が口から零れてしまった。すると、当然の言葉が陽向と力から返ってきた。


「まぁ、もう全国は狙えねぇな」


「東海には吹部ないからね」


「…そうだね」


私はがっくりと肩を落とした。










私たち5人は、同じ中学校の出身。


元々、ただの同級生同士の関係だったのが、今ではすっかり仲良し。今みたいに、時々登下校を一緒にしたりする。


そうなったのは中学生の頃、部活が一緒になったのがキッカケ。


私たちは中学生の頃、吹奏楽部に所属していた。


担当していた楽器は、私は主にピッコロと持ち替えでフルートを、由希と広はアルトサックス、力はフルート、陽向はトランペット。


私たちは吹奏楽コンクールの全国大会への出場権をかけて、毎日必死に練習していた。


顧問の先生に怒られ、部員同士ぶつかり合って、泣いた。


部活は楽しいことばかりじゃなかったけど、必死になればなるほど、本気になれた。


去年の真夏、九州大会で敗退してしまった時、部員の誰もが泣いた。それだけ皆は本気だったんだ。


中学校の部と高校の部の吹奏楽コンクール全国大会は、毎年東京都の普門館で行われる。


去年は普門館の耐震工事のため、名古屋のセンチュリーホールで全国大会が行われた。


“吹奏楽の甲子園”とも呼ばれている普門館は、吹奏楽部員にとって憧れの場所。


同時に、なかなか手の届かない場所でもある。


今回、私たちが入学するのは、福岡県立東海高校。残念なことに、東海高校には吹奏楽部がない。


普門館で全国大会が行われるのは、中学校の部と高校の部のみ。


だから、私たちが普門館のあの黒舞台の上で演奏出来るチャンスは、…もう、ないんだ。










それから私たちは、高校からの最寄り駅である福工大前駅で降りた。


今、私たちは駅から高校に向かって歩いている。駅から高校までは徒歩10分もないから、話しているとあっという間に着いてしまう。


「ていうか、なんで力は東海高校を受けたの?力ならもっと上の学校行けたじゃん」


私は力に訊ねた。


東海高校はいわゆる進学校で、偏差値は60を超えている。


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