心と、音で。─1年生編─
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でも力の場合、東海高校じゃ物足りないと思う。力はかなり成績優秀で、中学生の頃は模試で偏差値70以上を頻繁に出していたから。


「ほら、上の学校になるにつれて勉強が大変になるじゃん?授業もだし、その後の宿題や予習・復習もかなり必要だし、それに“朝課外”もあるし」


「確かにね」


福岡県内の半数以上の高校では、“朝課外”と呼ばれるものを実施している。これは朝のホームルームの前に行われる、50分程度の授業のことを指す。簡単に言えば、“0時間目”だ。


さらに力は続けた。


「それに、安定した成績はとっておきたいしね」


「それ、私には『高校のランク落としてまでトップになりたい』と言ってるように聞こえるんですけど」


由希は頬を膨らませた。由希は成績的に東海高校への進学は厳しいとされていたけど、部活引退後に必死に勉強して、やっとのことで合格した。


由希の言葉に、力は笑いながら首を横に振った。


「東海では、トップになりたくてもなれないと思うよ。そもそも入学式の新入生代表、俺じゃないし」


「マジで!?お前、中学ん時新入生代表だったのに!?入試でも260点出しときながら!?」


陽向は目を見張った。福岡県では県立高校入試の配点は各教科60点ずつの300満点。つまり、力は各教科平均52点取っていることになる。


東海高校の合格点数は210点。私たちの学区のトップ校は245点。トップ校を受けていても、力は余裕で合格していたかもしれない。


力は言葉を付け足した。


「あ、トップは280点らしいよ」


「はぁっ!?」


「に、280!?」


私たちは驚きのあまり、大声をあげてしまった。


「みんな声デカいから!ほら、見られてるじゃん」


私たちは辺りを見渡した。すると、他の通行人や新入生たちがジロッとこちらを睨んでいるのがわかった。


「あ、悪ぃ悪ぃ…」


陽向が申し訳無さそうに呟くと、みんなはボリュームを下げて、私から話を再開した。


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