心と、音で。─1年生編─
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「福西さ、去年九州まで行ってたよね?」


「でも銀だったけどね」


「いいなぁ。佐倉なんか、支部でダメ金だったのに」


吹奏楽コンクールの全国大会に出場するためには、福岡地区の中学校の場合、地区大会、支部大会、県大会、九州大会の4つの予選を突破しなくちゃいけない。


コンクールで演奏した各学校には、“金賞”“銀賞”“銅賞”のいずれかの賞が与えられていて、金賞の中でも上位大会に進める金賞と、その大会で敗退してしまう金賞がある。後者の方を、吹奏楽経験者は“ダメ金”と呼んでいる。


「課題曲は何やった?」


「《希望の空》だったよ」


「あ、一緒だ!」


吹奏楽コンクールでは、毎年ⅠからⅤの課題曲が与えられる。中学生はⅤを選ぶことが出来ないけど、高校生以上は自由にその中から1曲を選ぶことが出来る。


去年、福西中学校が選んだのはⅣの《行進曲「希望の空」》。これは、2012年に起きた東日本大震災の復興を願って作られた曲。


私は去年の課題曲の中でも《希望の空》が特に好きだった。


「吹奏楽の話してるとさ、また吹奏楽やりたくなってこない?」


「それ思う!でも、東海には吹部ないしね」


私がそう言うと、あすかは耳を疑うようなことを口にした。


「吹部、出来るらしいよ」


「えっ!?ホントに!?」


私は思わず大声を出してしまった。


「噂だけどね。なんか凄い先生が今年赴任したらしいよ」


「す、凄い先生って…?」


「誰かは知らないけど、音楽の先生らしいよ」


そうなのか…。


もし、この噂が本当だったとしたら…?


元々は地元の一般の吹奏楽団に入るつもりだった。でも、吹奏楽部が出来るなら話は別。


確かめる価値は十分にある。


「あすか!今すぐ行こう!」


私はあすかの腕を掴んだ。


「行くって…、一体どこに?」


「職員室に!その先生に会って、直接確かめるの!」


私はあすかの返事も聞かずに、そのまま職員室へと急いだ。










「多分、この先生よね?」


「だと思う。音楽の先生は一人しかいないみたいだし」


職員室の扉に貼られている座席表を確認すると、音楽の先生は“須恵翔吾”という人みたい。


…有名な先生、ではないと思う。


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