ライフ・フロム・ゼロ
大学2年の初めの頃、
バイト先の同期と付き合った。
同じ大学の理学部で、ひとつ上の彼は
賢く、物静かで優しい人だった。
恭一という名前で、私はキョウと呼んでいた。
私の状況を知ってもなお
優しくしてくれていたし、
私はそんな彼が好きだった。
というより、彼も母子家庭育ちの苦学生だったのだ。
東北生まれのその人は素朴で、
素直で、私は包まれるように愛してもらえた。
その時はじめて本当に、
私は本当の意味で人を好きになったのだと思う。
お金のかからない所に遊びに行き、
部屋でレンタル映画を見て、
記念日や誕生日にはささやかな贈り物をしあい、
ごく自然に私はヴァージンじゃなくなった。
二人とも貧乏学生だったから派手な
付き合いではなかったけれど、
私たちにはそれでちょうどよかったように思う。