ライフ・フロム・ゼロ

「もしかして、消しゴムない?」

突然、隣にいた見知らぬ女子から
小声で話しかけられた。
泣きそうな顔を見られたくなくて、
うつむいたまま頷いた。

前のほうでは、
試験監督がいよいよ説明を
終えようとしているところだ。

白く長い指が視界のはしにに一瞬うつる。
次の瞬間には、私の机の上に消しゴムが置かれていた。

顔を上げて隣を見ると、
そこには私の周りにはいないような、
本当に真面目そうな女子がいた。

彼女はもう、試験問題を前の席の
男子から受け取り、後ろの席にまわそうとしているところだった。

一瞬目があって、
彼女は自分の机の上の2個の、
消しゴムに目配せしてから小さく頷いた。
予備があるから大丈夫だ、ということだったのだろう。

とにもかくにも、私はそれでちゃんと試験を受けること
ができたのだ。
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