ライフ・フロム・ゼロ
5月に入り、渋る両親を説得して、
実家からそう離れていない、
大学のそばで一人暮らしをはじめた。
一人で自由気ままに暮らしてみたかった
のもあるけれど、帰りの時間やや飲み会に
いちいち両親が口を出すのが疎ましかったのだ。
ちょうどその時期に空きがでたという
家賃3万五千円の学生アパート。
両親はもっといいところに、と渋ったけど、
立地もよかったし、そんなに汚いところ
でもなかったからほぼ即決だった。
家具を搬入している時、ちょうど出かけたところから
帰ってきたらしい隣人と遭遇した。
「あ、」
「…あ」
「隣に引っ越してきました。
中谷梨花です」
「はい、あの…クラス…」
「うん、クラス一緒だよね。
樋口さんだよね?」
「はい、樋口清香です」
「えっと…お隣りだし、クラスも一緒だし、
とりあえずよろしくお願いします」
「よろしく…お願いします、」
小さく会釈してから、樋口清香は
自分の部屋に入っていった。