ライフ・フロム・ゼロ

混んでいる電車に乗り込み、
自宅の最寄り駅について改札を出ると、
さっきよりも更に雨の気配が濃くなっているような気がした。

いつもより急ぎ足で家に向かい、
途中コンビニでアイスを買う。

給料日だけ、ちょっと高いアイスを
買うのがここ数年の自分だけのルールだった。

貧乏臭いなあ、とナカには笑われたけど。
今日は、生チョコの棒アイス。

コンビニから二分の
自分の家の敷地に入ったその時、
背後から小さな音がした。


灰色のコンクリート敷の地面に、
黒色の点がひとつ。

それを見ている間に、
とつとつとつ、とその点が増えた。

それは次第に地面を埋めてゆき、
さぁああ、という音が周囲を包む。


「…降ってきた」


細い雨が降っている。
初冬の、冷たい雨だ。


ギリギリのタイミングだった。
今日は珍しくついてるのかも。


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